高齢者社会と物忘れ
高齢者社会の到来とともに認知症患者の増加が社会問題となりつつあります。
最近の薬物治療の進歩とともに、認知症の進行を食い止めることが可能となってきました。
将来は免疫療法などでより抜本的な治療方法が登場する可能性がありますが、現在物忘れでお悩みの方の治療が必要とされています。
物忘れは認知症だけではなく、うつ病などの精神疾患でみられることがあります。
また器質的疾患(脳梗塞、脳腫瘍、水頭症など)でも物忘れが見られることがあります。
物忘れを単に「年だから」と片付けないで原因を調べ、必要があれば早期治療を開始することが重要です。
「最近物忘れがあって気になる」がどうしたらよいのかわからない、仕事が忙しくて診察に時間をかけたくない、という方のために、当クリニックでは「物忘れ外来」を設立いたしました。
お忙しい方のために時間をかけずに検査と評価ができるように努力していますのでご利用ください。
MCI(軽度認知機能障害)
仕事や家事は普通にできているが、人の名前が思い出せない、物の置き場所を忘れる、判断の誤りやミスが多い、などの症状が目立ってきて困っている、という方が増えています。
このような方々の症状はmild cognitive impairments (MCI:軽度認知機能障害)と呼ばれます。
MCIの方を長期に観察すると30%の方はそのまま症状が悪化せずMCIのままにとどまっていますが、70%の方は将来アルツハイマーなどの認知症に発展することが知られています。
早期発見早期治療の観点から、MCIのうちに検査を受けて、必要があれば治療を開始することが重要です。
認知症
認知症の分類
認知症にはいくつかのタイプがあります。
代表的なものに、脳血管性認知症、アルツハイマー病、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症(ピック病)などがあります。
それぞれ臨床症状や頭部MRIによる検査結果が異なりますので、鑑別診断が可能ですが、合併している場合もしばしばみられます。
タイプによって治療方法が異なりますので正確な診断が必要です。
症状
中核症状
物忘れ、見当識障害(日時、時間、方向などがあやふやになる)
これらの症状はどのタイプの認知症にもみられ、重症度をはかる指標となります。
周辺症状
興奮、幻覚、妄想、うつ状態、などの症状がみられることがあります。
特に認知症が始まる5年程度前からうつ状態が起こりやすいことが知られていますので、高齢の方で初めてうつ状態になった場合には認知症の始まりを考慮する必要があります。
これらの症状に対しては薬物療法が行われますが、環境におけるストレスも症状を悪化させる要因となりますので、家庭や施設における家族やスタッフの関わり方が重要となります。
周辺症状が重症で来院が困難な方に対しては往診が必要となる場合があります
。当クリニックでは原則として往診を行っていませんが、お困りの時は御相談ください。
予後
認知症は脳の不可逆的な障害ですので、症状を一時的に改善したとしても完治することはありませんが、薬物療法の進歩により症状の進行を遅らせることができるようになりました。
認知症では脳機能が低下することによって、環境のストレスに対して影響を受けやすくなることが知られています。
環境の急激な変化や家族の関わりのあり方が、認知症の予後に影響します。
診療の流れ
様々な検査をすべて行い診断と治療まで受けると、大きな総合病院では一ヶ月以上かかることが普通です。
仕事などで忙しい方のために半日ですべてが終了するように企画されています。
①問診
いつ頃から物忘れが始まっているか、どの程度困っているか、環境にストレスがないか、など診断、治療に必要な情報をいただきます。
②検査
認知機能検査
認知症の程度を客観的に測定することが、診断や治療、薬の効果などを知ることに役立ちます。
検査内容は、記銘力、時間、空間見当識を測定するもので、MMSE、WFS-R、MOCAなどの検査が用いられます。
検査の所用時間はおよそ30分です。
頭部MRI検査
認知症のタイプや程度を知るために頭部画像診断は欠かせません。
MRI検査を総合病院などで依頼すると1ヶ月以上待たされることが普通です。当クリニックから徒歩5分のところにある「いとう横浜クリニック」と提携して、その日のうちに検査ができます。
診断に迷う場合は、SPECTという脳血流を測る検査が役に立ちます。
これも提携病院で検査を行うことが可能ですが、この場合には同日での検査はできず、予約をしてある程度の日時が必要となります。
血液検査
最近アルツハイマー型の認知症は、血液検査で特定のタンパク質を測定することによって進行度がわかるようになりました。最近妙に物忘れが増えて気になる方にはおすすめです。保険は適応になりませんので、2万2千円の費用がかかります。
また遺伝子型を測定することによって、アルツハイマー病になりやすい体質かどうかを測定することができます。まだ物忘れは気にならないが、近縁者にアルツハイマー病の方がみられる方におすすめです。保険は適応になりませんので、1万8千円の費用がかかります。
③診断
問診と認知機能検査、頭部画像診断の結果で認知症のタイプと程度を診断します。
④治療
治療が必要と思われる方には薬物治療の開始をおすすめします。
認知症のタイプや程度によって、薬剤の種類や投与量が異なってきます。
非薬物療法として、集団療法、芸術療法、回想法、運動療法、などさまざま治療方法がありますが、当クリニックでは非薬物療法は行っていません。通いやすいデイケアなど、他の施設のご利用をおすすめいたします。
⑤費用
認知機能検査は自費で2,100円です。初診の方は初診料等と併せて5,000円程度かかります。